花の詩と墨書
 
 
サクラー桜
木    田    華    子
私は
三重県の小学校へ通った
入学式の儀式に  
桜は大事な要素である
私の思い出の桜は                
葉桜であった
        
私の子供たちは
東京都の小学校へ通った 
4月4日の入学式に
校庭の桜は、みごとに満開であった
 
桜と入学式の図式は
東京地区からの発信だと
その時、理解した
 
 
木    田    華    子
満開の藤が藤棚に咲く様は
一種異様な迫力がある
花穂が葡萄の実のようでもあるし
藤棚ごと鑑賞する造形のようでもある
              
私のこの見方を変えたのは       
詩人・高田敏子さんの『藤の花』の一行
ー藤の古木が、千条の花房を咲かせるようにー
 
この一行を目にしてから
藤は、一房一房が語りかけてきた
たっぷりした花房を成り立たせる小花一輪一輪も
 
 『千条の花房』という言葉
藤の花の代名詞となって人々の心に届け 
 
 
すみれ
木    田    華    子
<すみれ>は
すみれ色   
花の名は色の名でもある
 
万葉の時代から歌にも詠まれた 
日本固有の花<すみれ>
丸みを持つ平仮名は
花のよう
 
 
 
 
 
 
つゆ草
木    田    華    子
霜の降りる日も近いというのに               
北の庭に
青々と茂っているつゆ草を見た
               
匍匐根を辺り一面にのばし
病葉もなく
元気いっぱいの緑の葉よ!
もう何度か吹いた北風を
どうやり過ごしたの?
 
まだ夏の葉のままにあるつゆ草さん
季節相応に枯れるがいいよ
相応は、幸せの一つなのだから 
 
 
つゆ草
木    田    華    子
スイートピーという響きが好きで
この花を愛している
濁音や拗音がなく、安らぐ響き     
    
スイートピーと言ってみるだけで    
温かな感覚が寄せてくる
 
 
 
 
 
 
 
 
矢車草
木    田    華    子
私にとって
矢車草は、青い色だ
       
今の花壇には
ピンクや白色も混じるが
そのことで
青色が目立つ
 
矢車草が咲き出すと
嬉しい気分になる 
なぜなのか理由はわからないが
小さい頃の良い思い出と
繋がっているのだろ
 
 
きんせん花
木    田    華    子
この花を
「好きだ」という人は少ない
仏花として使われることで 
愛でられる花としてのランクが低い
     
人の魂を慰めるという
重い任務を背負っているのに    
笑い物の種にもされる
 
マリーゴールドという
黄金色をさすきれいな響き 
きんせん花の英名である 
 
のぼり藤-ルピナス
木    田    華    子
のぼり藤といわれた花は             
今では
ルピナスとひとくくりにされる
 
かつて、のぼり藤を  
形よく咲かせるのは難しく
たいてい折れたり、曲がったりした
 
現代のルピナスは
体躯は太く、花も大きい
花の色数も多く豪華である
原種は、欧米から来た
 
楚々として育てにくい日本種は
この分野でも
肉食種に食われていく                                            
 
 
冬の薔薇の花
木    田    華    子
凍りついた大気の中に
黄色の薔薇の花が見える   
葉を落とし
枯れ木のような枝先に
一輪だけ咲いている
 
真冬の庭には
鉛色の空が地上まで下りてきて
生き物すべてが 
沈黙と忍耐の日々を過ごす 
 
この寒々しい世界の
彩りを担うには 
一輪の花では、あまりに非力だ
生き残ってしまった哀れさえ漂う
 
黄色の薔薇は
花びらの先を少し枯れ色に染めて
生き過ぎたことを
嘆いているかのようだ
 
 
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つゆ草
木    田    華    子
霜の降りる日も近いというのに               
北の庭に
青々と茂っているつゆ草を見た
               
匍匐根を辺り一面にのばし
病葉もなく
元気いっぱいの緑の葉よ!
もう何度か吹いた北風を
どうやり過ごしたの?
 
まだ夏の葉のままにあるつゆ草さん
季節相応に枯れるがいいよ
相応は、幸せの一つなのだから 
 
 
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百日紅
木    田    華    子
子供の頃に見た
さるすべりは
たいてい屋敷と呼ばれる庭にあった
       
毎年,夏休みになると遊びに行く
東京の知人宅のその木は
百年以上永らえた庭の主であった
        
百日咲くという濃いピンクの花と
猿も滑るという逸話の木肌は
子供の私には、特別な木に見えて
都市伝説に近いものになった
        
大人になって
庭に、サルスベリを植えた    
確かに花は、三カ月以上咲き続ける
貴樹として人中にありすぎたこの木の
猿が滑ることの証明は
たぶん伝説のままだろう
 
 
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さぎ草
木    田    華    子
山道のブッシュの中で見掛けた時
気にもとめず
もちろん手を延ばさず
見過ごしていくことができますか
       
カタバミの黄色の花のように
オオイヌノフグリの青い花のように
路傍の何げない草と同じように
放っておかれれば
今もまだ
林のあちこちに
さぎ草は、小さな白い羽を開いていただろう
 
あまりに美しすぎて
野生であることが許されないかのように
絶滅種への道をたどる悲劇の草
      
 
 
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クローバー
木    田    華    子
『高茶屋』という場所は
伊勢参りの街道沿いの高台で
江戸時代は、茶屋があったという
遠くに海を望むその場所で
私は育った
       
目の下に広がる広大な田畑には
春の盛りに
クローバー、レンゲ、菜の花が
モザイク模様の色を広げた
        
化学肥料に取って代わられるまで
田畑の肥料に最適と
何年も何代もの家族が植え続けていた
高茶屋から見えるその景色は 
「名所旧跡より心打たれる」と
行きづりの人でさえ魅入られていた
 
 
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彼岸花
木    田    華    子
農道の両脇に
曼珠沙華の花が列をなして咲いた
真っ直ぐな道で
遠くの山まで続いているように見える
       
子供たちはすぐ覚える
曼珠沙華が毒の花で
地獄花と言われていることも
この伝承の話は
ぞっとした感覚と共に
身の内深く取り込まれる
        
彼岸花の列植を目にして
山向こうの地獄へ誘う道のようだと    
大人の心に
子供の記憶が浮かび出る
 
 
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忘れな草
木    田    華    子
忘れな草は
少し長めの茎を伸ばして
道脇に楚々とある
       
そよ風にゆれて
その時、人は気づくだろう
青い小さな花の咲いていることに
        
あまりに小さな花なので
すぐ忘れられてしまいそうな
わすれな草
 
 
 
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しろつめ草
木    田    華    子
クローバーが、青々と繁る頃
ぼんぼん形の白い花が立ち上がる
クローバー原っぱの真ん中に
体を投げ出して座り
花を摘む
 
花かんむり
花の首飾り
ただ摘むだけのことも
次々と花を手折りあたりに散らす
 
摘みとることを
後ろめたく感じないでいられた花
手折ることで
この思い出は    
立体的に保存された
 
 
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